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01 青木正弘

青木正弘(愛知県豊田市美術館 元副館長) ー自己の存在が常に頭の中を駆け巡る、それが展覧会『IN BED』 [生命の美術]の表現として繋がる。
青木正弘(愛知県豊田市美術館 元副館長) ー自己の存在が常に頭の中を駆け巡る、それが展覧会『IN BED』 [生命の美術]の表現として繋がる。

ー1995年に開館した愛知県豊田市美術館。
美術館立ち上げメンバーの一人でもある青木正弘氏、




美術館としてのコンセプトの取り決め、




建築家 谷口吉生氏とは、実施設計の段階からビジョンを伝え展示室の提案等、




国内外コレクションの選出など独自のこだわりと信念を持ち、現代のスタイルとなった。
大規模展覧会の誘致以外に、




コレクションを軸にテーマ在りきの、自主企画を開催されているー

豊田市美術館 Toyota Municipal Museum of Art
豊⽥市美術館
Toyota Municipal Museum of Art

青木正弘氏の眼

豊田市美術館を立ち上げるにあたり、まずコレクション形成・作家をキュレートするということについて模索した。
作品の情報を集め、特定のテーマに沿って編集し、作品や作家の文脈に逆らうことなく企画されることが主流とされている。資料をもとに、画商との話し合いで出品を選出されることが通例であるという。
その段階にて、作品の評価が帰納法的であることに青木氏は疑問を抱く。

「作家と仕事をする時、作家が生きていれば必ず会う。作品をコレクションする時、まず大事にするのは、自分がこの作家においてベストの仕事をしている時期はいつかを探ることだ。そして自らの眼で直接作品を観て判断をしなくてはいけないと思った」と、青木氏。

自らの足で海外に飛び、直接作家と対峙、交渉を繰り返す。
ロンドン彫刻家トニー・クラッグ、イタリア現代彫刻家ジュゼッペ・ぺノーネ、スペイン現代芸術家アントニ・タピエスなどの作家と直接交渉。
フランス芸術家ソフィ・カルについて、最初はカルと仕事をしている知人を通して交渉を試みたが成立しなかった。彼はどうしても諦めきれずパリへ、カルに会いに行った。
しかし、成立は難しかった。それでも、3年間、カルに「欲しいんだ」とメッセージを送り続けた。
その後、根気と粘りでようやく念願の『盲目の人々』の交渉が成立し、作品をコレクションすることができたのだ。

美術館という舞台を作り上げていく様々な場面で、多くの葛藤があり、また納得をするまで激しく議論も重ねたという。
そんな経験を幾度か重ねながら、内側の変容を促すように、彼はキュレーターとしての疑わない熱量を身につけていく。「コレクションや展覧会は、自分で描いているヴィジョンを具体的にすること」
そんな彼の中にある絶対的な眼と迷いのない覚悟を持つ心からは、今も尚、美術館としての凛とした空気が立ち現れている。

IN BED

─ ベッドは、決して疲れを休め、眠るためだけのものではない。
誕生と死、安らぎと病、眠りと夢、そして性愛と快楽。
ベッドは、生と性にまつわる肉体的、精神的な営みの場であると同時に、個人が社会と向き合う行動の起点であり終点でもある。
それは常に喜怒哀楽の舞台であったし、間違いなく舞台であり続けるだろう ─ IN BED

2004年に開催された展覧会『IN BED』。
この展覧会は未だ記憶に新しい。

人間というものがこの世に存在する古代から『寝る』という行為は切り離せないこととして、その時代によるベッドは様々である。

『IN BED』展覧会では、
ー ヨーゼフ・ボイスの写真『キャンペーン・ベッド』。
ナン・ゴールディンの『セックスをしているスキンヘッド』『スクオティットハウスの血まみれのベッドルーム』の写真。
ソフィ・カルの『眺めのある部屋』ヴィクトル・ユーゴーの部屋で、ソフィは自分を寝かさないように、訪れる人々に寝物語をしてくれるように求めた記録作品。
草間彌生のミラーボールに横たわる赤いコスチュームの姿の彼女自身の写真。
ロン・ミュエクの彫刻、人間の一生における特別な習慣を想起させる、巨大な男の横顔の作品。
ヨーコ・オノ『ベッド イン』ハネムーンにおける、ベットの二人の平和と愛を願うメッセージ写真 ー
…など絵画、彫刻、映像、写真などのベッドにまつわる22名のアーティストによる異なった表現メディアの作品で構成されていた。

『IN BED』アーティストの作品を観賞していると、それぞれのBEDの向こう側にあるストーリーが自然と見え隠れする。そのうちに作品は静止なのに動画のように映りだす。それは、まるで映画を見ているような錯覚に陥ってくるのだ。
また同時に、自分の内側に秘められていた喜怒哀楽が不思議と次々に浮かびあがってくる。
観賞を終えたときには、自分とBEDとの纏わるストーリーがリアルなシーンとしてしっかりと心に居座っていた。

云うまでもなく、アーティストの作品が持つ強いメッセージがあるから想起できたことは間違いない。
『IN BED』その世界に浸るとともに、自分の源泉へと戻っていく体験は、不思議な観賞感覚と不思議な空間だった。

改めて、青木氏に尋ねてみた。
『IN BED』が生まれた根源を知りたくて。

『IN BED』そのもう一つのテーマである性的な意味での快楽についても、今でも頭の中を巡っています。それは、命を生み出すための行為(sex)になぜ快楽という装置が備わっているのかということについて考えます。私は行為(sex)に快楽という装置が組み込まれているのは命を絶やさないために組み込まれているのでは無いかと想像しています。それが宇宙の意思のようにも感じています。
そのことが宇宙と生命体、その一部である自己の存在の関係を考えさせてくれます。

彼が見えている風景は壮大であり、また現実的でもある。

無垢な心情から存在ということへの根本的な疑問から生命について、常に思考を巡らせる。

そして、生命体とは人智をも超え、宇宙からのメッセージにより自己は存在するのではないのだろうかと、彼は常に追走しているのだ。

膨大な幻想と内側からの思想を秘め、それらが現実として現れた時

ー『IN BED』生命の美術ー 展覧会が生まれたのではないかと推察した。

『IN BED』展覧会から18年が経つ。

未だー宇宙と生命体からの自己の存在ーが常に頭の中を駆け巡っていると彼は云う。しかし、それは随分と若い時から思い巡らしていた事だとも語った。

『IN BED』ー生命の美術ーは彼の疑問を重ねたもうひとつの世界だったのだろうか。

またー生命の美術ーという、過去に類を見ない表題に改めて感慨深く心に刻まれることとなった。

イワタトシ子

ー 続く ー

青木正弘氏
青木正弘氏
2022年2月5日 雪の降る金沢にて

『IN BED』22名のアーティスト

  • ジョルジュ・アデアグボ
  • 荒木 経惟
  • ヨーゼフ・ボイス
  • クリスチャン・ボルタンスキー
  • ジェームズ・リー・バイヤース
  • ソフィ・カル
  • ピエル・パオロ・カルツォラーリ
  • マルレーネ・デュマス
  • ナン・ゴールディン
  • 井田照一
  • 河原温
  • ウィリアム・ケントリッジ
  • イヴ・クライン
  • 倉俣史郎
  • 草間彌生
  • 松澤宥
  • ロン・ミュエク
  • シリン・ネシャット
  • ヨーコ・オノ
  • パブロ・ピカソ
  • アルヌルフ・ライナー
  • ビル・ヴィオラ
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